猫との田舎暮らしをめざして

今年は都会を脱出!

大きな病院で診察を受ける

病院での診察

 

近所の獣医さんでの手術から約3週間、放射線治療のため紹介された病院に、初めてうにを連れて行った。夫は仕事が入ってしまったのに、半日休みを取り、車を出してくれた。

まだ人々の移動が活発ではないためか、高速道路は空いていて、30分もかからずに病院に到着した。

コロナウイルス感染予防のため、受付以外は建物内に立ち入ることができない。10時に予約していることを告げると、駐車場の車の中で待つように言われた。

それから待つこと1時間。忘れられたのではないかと心配になったころ、やっと獣医さんが来てくれた。

手術時の病理検査の結果から、やはり進行の速い、あまりたちのよくない癌であること、レントゲンでは身体の他の部位への転移はないようだが、CTを撮って再確認する必要があることを説明された。このような検査を受けられるよう前夜から食事は与えていないので、そのままうにを預け、夕方に迎えに来ることになった。

「予約時刻からこんなにずれるんじゃ、予約する意味がないよな」

夫のイライラはかなりのものだった。午前中ですべてが終わると思っていたのに、もう一度来なくてはならないなんて、と不満なようだ。私は内心、近所の獣医さんとは勝手が違うのだからかなり時間がかかるだろうと思っていた。でも、わざわざ半日休みを取って付き合ってくれた夫には申し訳なくて、黙っていた。

夕方、うにを迎えに行くため6時半ごろ病院に着くと、受付には誰もいなかった。入り口にはコロナウイルス感染予防の張り紙がものものしく掲げられ、待合室はもちろん建物の中に自由に入ることもできない。何度も電話してみるが誰も出ない。夫はまたイライラし始めて、「どうなってるんだ、ここは」と文句を言い始める。

しばらくして白衣を着た人が通りかかり、私たちに声をかけてくれた。その人に取り次いでもらい、さらに30分ほども待って、ようやく獣医さんがうにを連れてきてくれた。

CTで見るうにの全身はきれいだったが、手術した部位の近くに灰色の影がある。これは、手術箇所が炎症を起こしている可能性もあるので経過観察になる。癌の性質からいって、再発の可能性は高い。また転移の恐れもある。そこで放射線治療抗がん剤療法を勧められた。テシエ先生に聞いていた通り、放射線治療は全部で12回。週三回のペースで4週間通うことになる。そして抗がん剤療法は一回につき一泊二日、それを三週間ごとに行って、計四回。私の仕事が再開したら、うまく予定を組んでやりきることができるだろうか? それについて質問すると、朝は8時半から、夜は7時まで預かってくれるし、必要な場合は入院も可能とのこと。週三回の通院は大変そうだが、やってやれないことはないかもしれない。

もう一つの大きな懸念はやはり、費用だ。

見積もりを出してもらうと、放射線治療が12回で1300ユーロ。 化学療法が一回につき約300ユーロだそうだ。また、今日のCTだけで500ユーロかかっていた。

これは正直、とても痛い出費になる。コロナウイルスの影響で失業になる人が多い中、幸いいまのところ基本給はもらえているものの、私が勤める会社も厳しい状況であることには変わりない。これからどうなるか不透明なのに、これだけのお金が出て行ってしまうのはとても不安だ。

でも、これらの治療をしなければ、結局再発は避けられないというのがよくわかった。

放射線治療では患部にピンポイントで放射線を照射し、副作用も限定的らしいので、うににとってそれほど苦しいものではないように思われた。一方、化学療法は人間の場合、髪が抜けたり吐き気があったり、こわい副作用の話をよく聞くだけに、身体への負担が心配だ。それでも効果が副作用に勝るなら、やったほうがいいのかもしれないが、即断はできない。

放射線治療をするなら、明日の水曜から始められますよ」と獣医さんに言われて、私は「やります」と即答していた。だが、夫が難しい顔をしているのを見て、獣医さんは「一旦考えていただいて、明日から始めるのであれば、明日の朝お電話いただいてからでもいいですよ。」と言ってくれ、その場では何も決めずに帰宅することにした。

帰りの車の中で、うにはしばらく何かを訴えるように鳴いていた。昨夜から何も食べていないからお腹が空いているに違いない。そして急に鳴くのをやめ、踏ん張っていたかと思うと、コロコロのうんちをした。たちまち匂いが車内に充満する。大急ぎでキャリーケースを開け、出てきたうにを片手で抱いたまま、うんちをティッシュでつかみ取ってビニールで包んだ。

そんなアクシデントがあったせいか、車の中ではあまり話もせずに家に着いた。

 

これからの治療を決断して

 

夫は、「今回は偶然うにのしこりを見つけたけど、そうでなければ気づかずにいて、手遅れになっていたかもしれない。もしそうなっていたら、大した治療はできなかっただろう。どちらにしても、うにはもう年を取っているし、今治療をしたってあとどのぐらい寿命が延びるかわからない。そのために時間とお金をどれだけ費やせるのか、よく考えて結論を出したほうがいい。」と言う。

確かにその通りだ。

自分たちを含めて、どんな生き物にも寿命がある。それに抗って少しでも長生きさせようとするのは飼い主のエゴであり、愚かな行為なのかもしれない。それでもうにの病気を知ったとき、たったの2年しか一緒に暮らしていないのに、もう別れを覚悟しなければならないなんて残酷すぎると思った。長年一緒に暮らしていたら、もっとつらいのだろうけれど、やっぱり2年は短すぎる。いつの間にか、うにがうちにいてくれるのが当たり前になっていたし、うにが自分のペースで暮らせているように思えて嬉しかった。こんな生活がまだ何年かは続くんだと確信していたのに。うにの病気を知ってからすべてが変ってしまった。たった一か月前はなにも知らずにいたなんて、不思議な気がする。そして、それ以前のうにとの平和な生活がずっと昔のことのように感じられた。

これからのうにの治療で大切にしなければならないのはなんだろうか?

もちろん、治ってくれるのが一番いい。

でも、獣医さんたちの口ぶりからすると、完治は難しいのかもしれなかった。

かといって何もしないでいたら、たちまち再発した癌がうにを苦しめるだろう。

それはできるだけ避けたい。

今なら、まだやれることがある。

あとどのぐらいうにの余命を延ばせるかはわからないにしても、うにに苦しい思いをさせず、可能な限り普段通りの生活を送らせてあげたい。

やっぱり治療を受けさせよう。副作用のある化学療法は少し考えるにしても、放射線治療は明日からやってもらうことにしよう。

夫に私の考えを伝えると、反対はされなかった。

彼にも迷惑をかけてしまうかもしれないけど、私が頑張れるだけやってみようと思った。

 

朝はお腹を空かせて、ご飯を待ちかねるうに