猫との田舎暮らしをめざして

今年は都会を脱出!

癌の宣告

うにの抜糸

 

手術からちょうど二週間が過ぎて、抜糸をする日になった。

その間、私は相変わらず仕事も休みで、ゆっくり時間をかけて料理や家の片づけをしながらうにの回復を見守ることができた。術後一週間で抗生物質をやめてから便も正常に戻ってきたので、トイレ後にエリザベスカラーを汚すこともほとんどなくなった。ほぼ普段通りの生活になり、私もうにに干渉しすぎないように努めた。うにが大嫌いなエリザベスカラーは抜糸の前日に外してやったのだが、外すなりものすごい勢いで傷の辺りを掻きむしったのでハラハラした。痒くてたまらなかったのか、かなり長い間掻いていて、バラバラと床に抜け毛が落ちる。手術から2週間も経っていれば、まさか傷口が開くことはないだろうが、傷の周辺がうっすらと赤くなったので少し心配になった。

診療所ではコロナウイルス感染防止のため、相変わらず建物の中に入ることはできなかった。入り口でテシエ先生にうにを預ける。

「まず抜糸をしてから、お話があります。」という先生の口調はいつもと違ってやけに淡々としていて、なんだかちょっとよそよそしい。瞬時に病理検査の結果が悪かったんだと察した。手術からずっと気になっていたものの、うにの順調な回復ぶりもあり、病名のことはできるだけ考えないようにしてきたのだった。とたんに胸のドキドキが止まらなくなった。

それからうにの抜糸が終わるまでの数分間はとても長く感じた。近くにいた夫が携帯電話で動画を見ながら私に何か話しかけてくるが、全く耳に入ってこない。どうして今頃のんきに動画なんか見ていられるのか。腹立たしくさえ思われるが、夫は人の表情を読み取るのが苦手なので、テシエ先生の様子の変化を感じなかったのだろう。

 

唾液腺の癌が判明

 

抜糸の後、前回の診察と同じように、先生とは診察室の窓越しに電話で話をする。

しこりはやはり癌であったこと。再発しやすくかなりたちの悪いものであること。手術は難しい場所であったため、癌細胞が残っているかもしれないこと。

病状についての説明は、聞くのが辛いことばかりだった。

これからうにはどうなってしまうんだろう。

うにがうちに来て2年。あっという間だった。この2年あまりにも早く時間が経ちすぎて、なんだか夢のようだった。

あとどのぐらいうにと一緒に暮らせるのだろう。

余命、なんて考えたくもないが癌という言葉は重すぎる。

なにより、うにがいなくなってしまうかもしれないなんて、考えられない。

うにに初めて会ったとき、推定8歳と聞いて正直なところ結構トシを取ってるな、と思ったものだ。でもうちに馴染んでくるにつれて、うにがこれまで大変な暮らしを経てこの年齢まで生き抜いてきたなら、これからはうちでゆっくりして長生きしてもらいたいと考えるようになった。そしてそのために、トイレやエサ、水などの生活環境について自分なりに勉強し、整えてきたつもりだった。だけど、そんな微々たる努力だけでは到底敵わない病気にかかってしまった。

最近は飼育環境が良くなり、長生きなネコの話もよく聞く。うにだってだんだん歳をとって身体が弱っていっても、大きな病気にはかからずにいてほしい…。でもそれは、都合のいい願いだったのだと思い知らされた。

「全身のレントゲンからは、今のところ転移はないようですし、リンパ節の腫れもみられません。ただ再発しやすい癌なので安心はできません。」

「今後癌の再発を抑えるため、放射線治療をしたほうがいいですが、できる施設は限られているので希望されるなら紹介状を書きます。」

「そちらで診察を受けてどうするか検討してみてください。ただやるなら早いほうがいいです。できるだけポジティブに考えましょう。でも決して軽く考えられる状況でもありませんよ。これからも経過を知らせてください。」

いつも親身になって診察してくださるテシエ先生の言葉には一つ一つ重みがあった。客観的な話し方でありながら、私たちを励まそうとされているのが感じられた。これまで診てきた動物に重い病気を宣告するのは、先生にとっても辛いだろうなと察せられた。

 

これからの治療の選択を迫られて

 

帰りの車内ではほとんど会話もなく、あっという間に家に着いた。何も知らないうにだけが、キャリーケースから出られて嬉しそうだった。

夫はやはり、放射線治療に伴う時間や金銭の負担を心配してくれた。全部で12回の治療をするため毎回遠い施設に通わなければならず、時間もかかるし費用だってかなりかかる。飼い主によっては無理だと判断し、治療をしない人もいるだろう。でもしないと決めたからといって、その飼い主を責めることはできない。治療は動物にとっては苦痛が大きいだろうし、それを見守る飼い主にとってもつらいことが多いだろうと思う。それと引き換えに、治療の効果が保障されるわけでもないのがさらに難しいところだ。また、人間の生活が経済的に逼迫すれば、動物を養うこともできなくなってしまう。

さあ、私はどうしたらいいのだろう。

ここはしっかりと考えなければならない。

ただ、いつまでも結論を先延ばしにすることもできない。その間にも病気は再発し、進行してしまうかもしれないからだ。

治療を受けさせるなら、早くしないといけないのだ。

それでも今日いっぱいは、しっかり考えよう。

そしてうにの身になって、決断しよう...。 そう思った。

 

嫌いなエリザベスカラーとも、やっとお別れ