猫との田舎暮らしをめざして

今年は都会を脱出!

抜糸までの様子

食欲が戻った!

 

手術の翌日に初めての食事を与えたとき、食欲はあるのに、柔らかいパテ状のエサでさえ食べ辛そうにしているうにの姿は痛々しかった。

手術は顎の右下と口内の二か所から切ったといい、口内の縫合部は自然に溶ける糸なので抜糸の必要はないそうだ。そして口の中は傷の治りも速いとのこと。それでも口を開けにくそうにしていて、当然痛みもあるはずだ。手術はどうしても必要だったとはいえ、うにがかわいそうでならない。

相変わらずエリザベスカラーも気に入らないようだ。身体の動きは徐々にスムーズになってきたが、椅子の脚にぶつかっては後ずさりすることを繰り返している。それでも手術から3日目には、窓辺の見張り台があるテーブルに登り、水を飲むようになった。時間が経つにつれて、少しずつだが確実に元気になってきているように見える。

それなのに、パテ状の食事を始めて一日ほどたつと、だんだん食べなくなってきた。手術当日からお腹は空いていたはずなのにおかしい。確かにうには以前からカリカリが好きで、他のタイプのエサだと食が進まない。かといっていつものカリカリでは固すぎてうまく食べられないのではないか? そこで普段より粒が小さく薄いものを買ってきて恐る恐る与えてみると、ガツガツとすごい勢いで食べ始めた。手術の傷など全く気にしていないと思えるほどの食欲を見て、私はとても嬉しくなった。手術の傷はまだ生生しく、皮膚に黒く固まった血がこびりついていて、見るたび気の毒になるぐらいだが、それでもうには食べている。皿はあっという間に空っぽになった。

これならきっと、うには大丈夫。

病気を発見する前、毎日ほんの少しだけエサを食べ残すようになったうに。私は漠然とした不安を感じていたのに、日々やり過ごしていたことが思い出される。もし、うにと話ができたなら、どこがおかしいのか聞いてあげられたのに。いや、うにのほうではいつもと違うというサインを発していたのに、私が感じ取ってあげられなかっただけなんだろう。ネコと人間。一緒に暮らしていても分かり合えない難しさがある。でもそれは人間同士だって同じだ。ともに過ごした時間の長さにかかわりなく、私たちそれぞれ、自分は自分。自分と他者のあいだには越えられない垣根があって、結局のところは孤独なのかもしれない。それでも長い間を過ごし、たくさんの出来事を共有し寄り添ってきてくれた家族は、私にとってとても大切なものだ。そしてうにも今、私の家族の一員なんだ。

 

少しずつ元気になってきたうに

 

しっかり食べることで体力が回復してきているのか、日中は長い間丸くなって眠っているものの、うにの活動量は少しずつ増えてきた。私たちが食事をしていると、自分もごはんが欲しいとアピールしたり、満腹になると撫でてくれと鳴いたりした。それとともに私の近くで不安げにうずくまっていることも減り、自分の好きな場所で過ごす時間が長くなってきた。私にしてみればちょっと寂しいが、これも回復の過程だと思えば喜ぶべきかもしれない。

本来うには人に媚びないマイペースなネコであり、気が向かなければ呼んでもまるっきり無視するのがあたりまえの姿なのだ。夕方仕事から帰宅すると出迎えてくれるのは、おもにエサのためであって、ひとしきり食事に満足するとどこかに行ったきりすっかり気配を消してしまう。名前を呼んで探しても出てこない。うにを見つけるのはあきらめて、テレビでも見ようと居間の電気をつけ、ソファに横になって初めて、目の前のローテーブルの下で寝そべっているうにに気づく…。なんてことは日常茶飯事だった。そのくせ、ちょっと人恋しくなると、こちらをしばらくじっと見つめてからおもむろに寄ってきて、ひらりと私の膝に飛び乗ってくる。頭や喉を撫でてやるとだんだん軟体動物のようにだらーんと脱力して、しまいにはすうすう寝息を立てて眠り込んでしまう。そんなうにの身体の温かさと重みを感じながら、ソファで過ごす一日の終わりは最高の時間だ。夜も更けてきて、このひとときが終わってしまうのがもったいなくてたまらなかった。お風呂に入って床についてしまえば明日になり、またうにと離れて仕事に行かなければならないのだから。

それに明日もうにが膝に乗ってきてくれるという保証はない。窓辺のテーブルの、うにの見張り台から動こうとせず、抱き上げて連れてきてもあっという間に走り去られてしまう日が多いからだ。なにがなんでも人の言うなりにはなりたくないらしい。つまり、私としては、うにが自分の意志で乗ってきてくれるのを待つしかないのだった。

「今日は膝のりサービスはしてくれないの? ごはん代出してあげてるのに冷たいなあ。」

お気に入りの毛布の上で寝ているうにに愚痴をこぼすと、薄目を開けて上目遣いに私をちらりと見るけれど、

「ああ、またこの人かー。」

とでも言いたそうにまた目を閉じてしまう。

つまり、ネコというものは人の言うことは聞かないし、人の思い通りにもならない動物なんだろう。かといって薄情なわけでもなく、要所要所でアピールして、なかなかの甘え上手でもある。だから結局、人はネコの魅力に取りつかれてお世話をしてしまうのだろう。

 

自分のペースを取り戻して

 

手術から時間が経つにつれ、うには日々確実に元気を取り戻しつつあった。その様子にほっとする一方で、こちらは心身の疲れを感じていた。

うにが心配であると同時に、床に敷いたマットレスは寝心地が悪くてどうしてもよく眠れない。そこで、手術から4日目の夜から、自分のベッドに戻って寝ることにした。それでもやはりうにが気にかかり、いつもは閉めている寝室のドアを開けておいたら、スッと入ってきてベッドの私の足元あたりに飛び乗って横になった。夜中や明け方に騒いだりしたら、夫に文句を言われてしまうだろうなと心配したが、翌朝までとてもおとなしくしていた。早起きの彼が起きだすと台所について行って朝ごはんを要求し、食べ終わるとまた寝室に戻ってきて、二番寝している私の足元で眠っていた。

その次の日の夜はドアを閉めて寝ようとしたら、ガリガリとドアを引っかいて抗議されたので、再びベッドで一緒に眠ることになった。そんなことが何日続くのかと思っていたが、数日後には居間のいつもの寝場所に戻って寝るようになったうに。元気になってきて、自分のペースに戻りつつあるのだろう。もっと頼ってきてくれてもいいのに、と少々残念な気もしたが、日常の生活を取り戻すのが一番だから、これでよかったんだと思うことにした。

食事もおいしそうにしっかり食べて、うにの体調は日に日に良くなっていくようだった。夕方になると走り回ったり、ボールやカーテンの端を捕まえようとしたりと、活発な姿も見られるようになった。2年前初めてうちに来た当初はトイレの後にダッシュしていたし、真夜中にドタバタと走り回って独り運動会をしていたものだが、そのころに戻ったかのような元気さだった。手術から一週間目には獣医さんに診察を受け、経過も順調でその次の週に抜糸をすることになった。手術で切り取ったしこりの病理検査の結果はまだ出ておらず、不安はあったものの、元気で若返ったようにさえ見えるうにと毎日を過ごしているうち、悲観的な考えは薄れていった。

 

手術から一週間、クッションで遊ぶうに