猫との田舎暮らしをめざして

今年は都会を脱出!

いよいよ手術

手術を受けたうに

 

うにの手術の前日は、なんだか自分のことのようで落ち着かず、よく眠れなかった。

寝不足で頭がぼおっとするのだが、再び眠ることもできずに起きてくると、お腹を空かせたうにのアピールがすごい。昨夜から何も食べていないのだから当然だ。いつもなら、にゃあにゃあ騒げばご飯がもらえるのに、今日はちょっと様子が違うな?と戸惑った様子だ。 しばらく鳴いても食べ物が出てくる気配がないので、玄関横の靴箱に飛び乗って、今度は目線で訴えるうに。そんなにうらめしそうに見つめられてもダメなんだよ、ごめんね…。自分の訴えが受け入れないと見ると、うには窓際のテーブルの上のお気に入りの毛布に移動して、ふて寝を始めてしまった。せっかくウトウトしかけているところを起こされて、キャリーケースに入れられたうには、とてもかわいそうだった…。

今日は夫が車で送迎してくれることになり、獣医さんにはあっという間に到着。手術は午前中に行われるため、昼過ぎに連絡するようにと指示を受け、いったん帰宅した。

「今頃うにはどうしてるかな…。」

悪いところは早く取ってもらった方がいいのはわかっているけれど、手術はやっぱりこわいし、うにが苦しい思いをするのはとにかくかわいそうだ。何も手につかないし、時間がなかなか経ってくれない。やっとお昼になり、早速獣医さんに電話した。

「手術は無事に終わりましたが、開けてみたら大きな血管に近く、思ったよりも時間がかかりました。」

結局、顔の側と口内の二か所から切って腫瘍を取り出したが、デリケートな場所で、大変な手術になってしまったようだ。

「麻酔をしっかりかけましたから、経過を観察して夕方までは預かります。」

ということで、5時過ぎに迎えに行くことになった。ところが、それから1時間ほどして再度連絡があり、

「手術中に血液を飲み込んでしまっていたようで、それを吐き出しました。また出血するといけないので、様子をみます。今日退院できるかどうか、4時ごろにまた連絡をください。」とのこと。

うにちゃんは大丈夫なのか。

午後もまた、とても長かった。ともすれば悪いほうに考えてしまうので、休業中の会社から出されている課題に取り組むことにする。集中するのに苦労するが、なんとか約束の時間まで作業し、どうにか時間をやり過ごす。

「もう出血はしていませんから、迎えに来て大丈夫ですよ。」

早くうにの顔が見たい。いてもたってもいられない気持ちで診療所に向かう。

先刻電話で聞いたとおり、手術は予想以上に複雑で時間がかかったそうだ。切り取られたものが何なのかとても気になるが、検査機関に送って結果を待つことになった。ただ、獣医さんによれば、単なる膿の塊ではないらしい。結果が判明するまでは、また不安な時間を過ごすことになりそうだった。

それでも今は、とにかくうにに再会できたことが嬉しい。

術後の注意事項、投薬や食事などについて話を聞く。痛み止めは4日間、抗生物質は8日間、食事は柔らかいパテ状のものから始める。エリザベスカラーのせいで、歩行がぎこちなくなるが心配はない。今夜は様子を観察して、出血などがあれば緊急連絡先に電話すること。今夜は寝ずの番になろうとも、うにのそばにいようと決心する。

 

いつもと違ううに

 

帰宅してキャリーケースを開けても、なかなか出てこようとしないうに。いつもとは違う様子にこちらも戸惑うが、しばらくはそっとしておくことにした。やがて、そろそろと用心深く後退しながら出てきて、ゆっくりと歩き、居間の絨毯の上にうずくまるようにして座った。ちょっとふらついて見えるのは、まだ麻酔薬の効果が残っているためだろうか。

うにの様子を気遣いながらも、夕食の準備に取り掛かるため台所に立つ。ふと振り返ると、うにがダイニングテーブルの下にうずくまって、私を見上げていた。それから立ち上がって、窓辺に行こうとするのだが、エリザベスカラーがテーブルの脚にぶつかってしまって思うように動けない。そのたびにビックリした様子で後ずさりしては、頼りない足取りで歩き、ようやく外が見えるところまで行くと、そこに座り込んだ。いつもよりずっと動作がのろい。どこかがひどく痛むんだろうかと心配になった。でも、明日までに必要な薬はすでに与えてあるそうなので、今は静かな環境で休んでもらうしかないのだろう。

夕食後にテレビでも見ようと居間に移動すると、うにもついてきて、絨毯の上に座る。しばらくすると、慎重な動きでソファの上に飛び乗り、私の隣に座った。エリザベスカラー越しに手術の傷が見えるが、黒ずんだ血がこびりついていて痛々しい。それでも、傷や口内からの出血はなさそうだったので、少し安心する。うにの身体からは、かすかに消毒液のにおいがした。今日は本当に長い一日だったね。背中をそっと撫でると、喉をゴロゴロと鳴らすが、身体はちょっとくたっとしていてさすがに疲れているようだった。

 

術後のうにを見守った夜

 

その夜は居間のソファで寝ようかとも思ったが、結局娘の部屋のマットレスで寝ることにする。布団を準備し、お風呂に入る前にトイレに行くと、うにはドアの前で待っていた。普段はしない行動なので戸惑う。お風呂から出ると、今度はバスルームのドアの前で待っていて、私が出てくるとついてきた。声は発せずに、少し歩いては座る。それはまるで、体力を温存しようとしているようにも見えた。

床に就くとき、うにがいつも使っているクッションと毛布を私の布団の横に置き、うにを連れてきたのだが、すぐに私の布団の足元に乗ってきて、そこで丸くなった。

私も寝ようとしたが、ウトウトとはするものの何度も目が覚めてしまう。そのたびに起き上がってうにの様子を見るが、静かに寝息を立てて眠っているので、私もできるだけそっと布団にもぐりこんで、また浅い眠りに戻った。

三度目ぐらいに暑さで目覚めたとき、不思議な光景を見た。

年配の男性がうにのほうに手をさしのべ、じっと見守っているのである。顔は私の体勢からだとよく見えないが、チェックのシャツに茶色っぽいカーディガンを着た、短髪の人物だった。

身体を起こすと同時に思わず、「えっ…」と声が出てしまう。

そしてそれから数秒間ほど、その人の姿は見えていたが、まるで部屋の空気に溶け込むようにして消えていった。

私は霊感とか特殊能力とか、そんなものは全く持ち合わせていない。疲れてストレスが溜まりすぎ、幻覚を見てしまったのだろうか。

でも、あの時、私にははっきりと見えていた。ただ横を向いているので顔はしっかりとはわからなかった。会ったこともない人だが、日本人ではないような気がした。

不思議に怖いとか、不気味だとは思わなかった。

それはその人が、とても穏やかな雰囲気でゆったりとうにを見守っていたからだろう。

 

手術当日の朝、ご飯をもらえず不満げにこちらを見るうに