猫との田舎暮らしをめざして

今年は都会を脱出!

遅い夏休み

夏休みの行き先を決める

 

うにの癌の2度目の再発にかなり落ち込んだが、先日の診察と検査の結果、とりあえず転移はしていないようだった。気付けば、もう9月も半ばに差し掛かろうとしている。

テシエ先生に相談した結果、一週間程度なら、うにを娘に預けて出かけても大丈夫そうだった。幸い、うにの状態は安定していたので、私は改めてバカンスの行き先を探し始めた。とはいえ、一週間ではあまり遠くへは行けない。それに、万が一うにの具合が悪くなった場合は、急いで戻れる程度の距離でなくてはならない。

大急ぎで検討した結果、アルザス地方のコルマール近辺に滞在する計画を立てた。幸いバカンスのシーズンは過ぎていて、出発間際でもなんとか宿を見つけることができた。

アルザスへ向かう前に、まず、娘の家に2泊して、うにの体調と他の猫たちとの折り合いを確認する。

車で2時間半ほどの移動が心配だったが、高速道路に入ったところでうにをキャリーケースからしばらく出してやると、私の膝の上でうつらうつらしたりして、あまり緊張している様子もない。途中の渋滞もなく、順調にヴァランシエンヌに着くことができた。

 

娘の家に着いて

 

家に着いて娘の猫、くろちゃんとうにが会うのは久しぶりだが、鼻先をちょっとくっつけて挨拶した後は、お互い淡々としている。問題はもう一匹の猫、モーだ。まだ若くて元気なオス猫で、見慣れない私たちが来たのが不満らしく、近寄るとフーッ、と威嚇してくる。

ところが、うにの方はといえば、他の猫たちなど全く意に介しないといった様子で泰然としている。我が家に来る前はこの家で2か月間暮らしていたので、その時のことを覚えていたのかもしれない。まるで自分が一番エライとでもいうように、2階へ続く階段に陣取った。

そして、モーがちょっとうにを見た途端、うにがものすごい目つきで睨み返した。すぐに目を逸らして後ずさりするモー。完全にビビッている。階段を登りたそうにしているが、うにが怖くて近寄れないようだ。やがてうには悠然と階段を登って娘の部屋に行き、ベッドに寝そべった。モーが気の毒な気もするが、うにの貫禄には私たちもびっくりしてしまった。しばらくすると、猫たちは三匹三様に好きな場所で過ごすようになり、モーもすっかりおとなしくなって、私にスリスリし始めたりした。

ヴァランシエンヌに着いてからも、うにの食欲や排泄はいつも通りで、特に気がかりなことはなかった。

食事時、うにの皿は他の猫たちの皿から少し離れたところに置いたのだが、いつものカリカリと違う匂いに引き寄せられるように、くろちゃんとモーも興味津々で近づいてきた。そんな二匹の様子を見てもうには余裕綽々。自分の食べ残しを多少つまみ食いする程度は黙認する度量の大きさだ。それはまさに、大姐さんといった風格。もちろん、うにの食事を邪魔する子なんて誰もいない。

ともかく、うにがこの家で一週間無事に過ごせそうでほっとする。

私たち家族も、娘と一緒に庭でバーベキューをしたり、大きな公園を散歩したりして、水入らずの時間を過ごすことができた。

この様子なら、出かけても大丈夫そうだ。何かあったらくろちゃんのかかりつけの獣医さんに診てもらえるよう頼み、私と夫はアルザスに向けて出発した。

久しぶりのハイキングはきつかったが、誰もいない自然の中で、おいしい空気といい景色を満喫して、とてもいい気分転換になった。今年は、これまで経験したことのない「コロナ禍」のために、誰もがストレスを抱えてきたと思う。パリでは、みんなが多かれ少なかれ疑心暗鬼でピリピリしていたが、田舎には、まだ多少はのんびりした雰囲気が残っているような気がした。しかし観光客は少なく、有名なクリスマスマーケットもすでに中止が決まっていて、どこも大変なことには変わりがない。早く事態が好転するよう願うばかりだった。

 

うにと再会

 

あっという間の旅行が終わり、娘の家にうにを迎えに行く。猫たちの様子は毎日のように聞いていたから、約一週間、不安もなく過ごすことができた。その夜は娘にお土産を渡したり、夕食を一緒に食べたりしてにぎやかに過ごした。そして、私がソファに座ると、音もなくうにがやってきて、私の隣に寝そべった。

「うにちゃん、ごめんね、うにちゃんを置いて出かけてきたりして。お留守番ありがとう、明日はおうちに帰ろうね。」と話しかけると、ゴロゴロと喉を鳴らし、私の膝に顎をのせてリラックスし始めた。もとはこの家で暮らしていたうにも、今は私を飼い主だと認めてくれているのだろうか。改めて、うにに留守番させて悪かったな、と思った。私たちがいない間、うには娘のベッドの上で寝ていることが多かったそうだ。他の猫たちに邪魔されることもなく、階段を降りて食事やトイレに行くにもとくに支障はなかったと聞いて、私はほっとした。うにの状態が安定していたおかげで今回の旅行が実現したようなものだ。本当にうにはいい子だ。

娘の家の階段で、にらみをきかせるうに



それにしても、いつもはうちでダラダラしているうにが、こんなに強い猫だとは思わなかった。確かに年齢を重ねているし、生まれた時から飼い猫として生きてきた他の猫たちとは経験値が違う。保護される前のうにの猫生はいまだに謎だが、さぞかし厳しい生活を強いられてきたのだろう。病気のうにがいじめられるのではないかという私の心配は、結局取り越し苦労に過ぎなかった。しかし、うにの逞しさは、外で暮らす猫たちの過酷な暮らしの中で培われてきたことを考えると、感心しているだけではいけないと思った。うにが安心して、ゆったりと生涯の最後のひとときを過ごせるように願うと同時に、今も外で大変な思いをして生きている猫が一匹でも多く幸せになってほしいと思った。